設計関係法務
設計・監理を行う設計事務所特有の法的問題について、紛争解決(裁判、調停、交渉、法的アドバイス)、リスク回避、ビジネスサポート等を行います。
設計事務所特有の法律問題
設計事務所に特有の法律問題には、大きく分けて、
- 私法(民法、商法等の民事法)に関するもの(民事紛争)
- 公法(建築基準法、建築士法等)に関するもの
があります。
紛争事案のボリュームとしては、損害賠償や報酬請求等のお金の問題を中心とした民事紛争が多数を占めますが、一方、建築基準法違反、建築士法違反という公法上の問題についても、民事紛争の中で、瑕疵や債務不履行等の評価基準として用いられることが多いため、両者は表裏一体の関係にあるといえます。
したがって、設計事務所特有の問題を解決する上では、民法・商法等の私法に加えて、建築基準法、建築士法を理解することが望まれます。
設計事務所特有の民事紛争
設計事務所特有の紛争としては、設計瑕疵・債務不履行に関するもの、契約・報酬に関するもの等が多くみられます。
中でも、完成した建物の瑕疵が問題になるケースは、施主、施工者の三者(又はそれ以上)にて瑕疵の有無とその原因が争われるため、紛争が長期に渡り、設計報酬に比して極めて多額の損害賠償請求を受けることも少なくありません。
また、設計事務所が受託する監理(工事監理+付随する業務)の内容・役割については、裁判所を含めて一般人に理解し難いため、契約書の業務範囲の設定や打合せ議事録等で自己防衛をしておかなければ、施工瑕疵も含めて監理者の責任との認定を受けてしまいがちです。
住宅等の小規模な建築においては、契約書の内容が極めて不十分なものが多いです。設計事務所から見て「報酬なり」の業務だけでは、大きな責任を問われるリスクがあります。
設計瑕疵・債務不履行に関する紛争
- 設計の問題(業務遅滞、施主要望の聴取違反、予算超過、工法・材料選択の誤り、構造計算ミス、設計図書不足、法令違反等)
- 監理の問題(施工瑕疵の見落とし、必要な行政検査・手続きの看過等)
契約・報酬の清算に関するもの
- 施主による契約の債務不履行解除の可否
- 途中解除・清算における設計の出来高算定
- 追加工事に伴う追加報酬請求の可否
通常の報酬請求という認識でも、設計瑕疵や減額を主張され、支払いが受けられないというトラブルも多いです。
建築基準法・建築士法等の公法に関する問題
設計事務所、建築士が受託する設計、工事監理業務は、建築士という国家資格に基づき、建築基準法等の関係法令を遵守して行わなければならないとされています。
そのため、それらの法令に違反した場合、設計事務所、建築士は懲戒処分、建築物は確認済証の取消や是正等措置命令等の行政処分を受ける可能性があります。
普段の業務の中では、違反した場合の処分について意識することはありませんが、仮に、何らかの違反が発覚した場合、処分を回避・低減するための措置を講じるとともに、その先にある様々な民事上の問題(是正や損害賠償、業務停止に伴う顧客対応等)について対策を検討しなければなりません。
なお、事案としては少ないですが、設計監理業務の問題が刑事事件に発展する場合もあります。
この点については、後述します。
設計事務所の危機管理
建物の安全は、生活や社会活動の安全でもあります。
仮に、過去に行った設計の安全上の問題(例えば、建築基準法の構造規定違反等)が発覚した場合、安全性の検証(緊急性を要するものか否か)や是正措置、顧客や行政への説明など、速やかな対応が求められます。
建築士の刑事事件も度々発生しています。
過去に設計した建物で死傷事故が発生した場合、建築士が業務上過失致死傷の罪に問われることがあります。温浴施設での爆発事故では設備設計者が、東日本大震災での駐車場スロープ落下事故では構造設計者が、業務上過失致死罪に問われました(スロープ事故は高裁で無罪)。処分の当否は別として、建築士が厳しい責任を問われ得るということを示す一例です。
また、設計事務所に所属する者が、建築士の資格証や確認済証等の文書を偽造して逮捕されるという事件も発生しています。
刑事手続の対応のみならず、事故や事件に関し、顧客や社会に向けてどのような説明や報告を行うべきか、という点が重要になります。