広がりつつある耐震診断結果の公表について その2
耐震診断結果の公表の状況
公共性の高い大規模既存不適格建築物の耐震診断結果の公表は、大都市圏を除く地方を中心に昨年11月頃から順次、行われています。
現時点(平成29年3月時点)で把握しているものだけで、東北、四国、甲信越、北陸、中国、九州の一部を除く地域、静岡で、民間所有を含む、耐震診断促進法に基づく公表が行われています。
耐震不足の数と割合の多さで目立つのは、静岡、大分、群馬、栃木、石川、など。いずれも、古い大規模温泉街を抱えている地域です。
一方、大都市圏での結果を公表は、やや遅れがちながら、3月までに広島、神奈川、千葉等の都市部で公表がありました。
「不正確な情報が公表されることを防ぐため、報告内容は丁寧に精査する必要があります。このため、とりまとめには一定の期間が必要になります。」(神戸市の例)という理由は重々理解できますが、そうなると東京や大阪などは、一体、いつになるのでしょうか。
東京都の進捗状況
東京都では、個々の建物の診断結果の公表は、まだ行われておりません。
耐震化の進捗を「耐震化率」という形で公表している限度です。
避難や緊急輸送の通行を確保するための「特定沿道建築物」(耐震診断促進法における要安全確認計画記載建築物)の耐震化率については、東京都耐震ポータルサイトにて確認することができますが、平成28年末の段階でも、環七から内側では、耐震化率が8割未満の箇所が多くなっています。
つまり、所々で建物が倒壊して、道路を封鎖しまう可能性が高い、ということです。
特定沿道建築物の耐震化診断結果も公表の対象です。
特定沿道建築物については、建物が倒壊した際に道路に影響が及ぶか否かから判断され、規模・用途は問われないため、公表に当たっては、前述の公共・大規模建築物とは異なる配慮が必要となると思われます。
公表による様々な影響
公表された結果は、都道府県・市のホームページで確認できます(「要緊急安全確認大規模建築物の耐震診断結果一覧表」などと表記)。
ただし、公表ページへのアクセスが非常に分かりにくく、また、表の記載が難しかったり不親切なものが多いため、一般の人が公表結果を知るのは容易ではないようです。
そのせいもあって、公表のタイミングで、地方紙などでは「施設名」そのものを一覧表で掲載していました。
これでは、営業などへの影響は避けられません。
早くも、公表によって、市民会館や老舗ホテル、百貨店の閉館や、規模縮小など、具体的な影響が出始めています。
東日本大震災から6年が経過した平成29年3月12日、日本経済新聞は一面トップでこの問題を報じました。
施設を所有する企業は、耐震化の目途が立たない場合、公表に先んじて閉館を決めてしまうようです。
また、公表の中で「耐震補強の予定中」とされているものでも、補強に至らずに閉めてしまうものが出てくると予想されます。
診断結果の公表の対象となっている建物は、町全体のごく一部です。
しかし、地域を代表し、昔からランドマークとなってきた建物に「危険」のレッテルを貼られることは、町全体に甚大な影響を与えるものと思います。
一過性の問題にしないことが重要
このようなマイナスの影響を一過性の問題とせず、永らく放置されてきた安全の問題を、地方の政治や地域経済全体から考え直すきっかけにすることはできないでしょうか。
確かに、耐震性だけが建物の価値ではなく、古い建物の良さは大事にしたい。
また、新耐震が全てではなく、旧耐震でもバランスよく安全な建物も存在します。
しかし、耐震性が著しく不足した建物の表面だけを美しく整えて、商売に利用し、一方で利用者が危険性に気づかないことは、やはり問題であり、そろそろ改善されるべきなのではないかと思います。
特に、一般消費者が売買する不動産に関しては、耐震性不足がどれだけ理解がされているのか疑問です。
リノベ流行りはよいですが、マンションなど、早く手放した者勝ちという「ババ抜き」のような売買が行われていないでしょうか。
診断義務や公表の対象とならない中・小規模建物や、対象建物が存在しない地域においても、耐震化を考えていく必要があります。
耐震化の問題は、引き続き考えていきたいと思います。