建築確認の取消と予測可能性

増えている建築確認の取消

確認済証の取得は、それがなければ工事を行うことができないことから、設計業務において、また、事業全体においても、最も重要な要素の一つです。

かつては、様々な外的・内的課題をクリアして確認が取得できると、設計者として安堵したものですが、現在では、そうもいかないようです。

特に、確認審査が民間に開放された平成12年改正以降、確認が事後的に取り消されるという事態は少なくなく、中でも、既に建築が進んだ時点での取消が、しばしばニュースになるようになっています。

平成27年末にも、完成間近の東京都文京区の分譲マンションの確認が建築審査会にて取り消されるという事件があり、大きな衝撃がありました(平成29年2月現在、取消処分を取り消す訴訟が係属中)。

がけ地マンションの取消事例

昨年、平成28年11月29日にも、横浜市金沢区で完成に近いマンションの確認を、東京地裁が取り消したとのこと。

報道によれば、高さ制限10mの地域のがけ地のマンションで、地盤面の取り方が争われたようです。

この件については詳しい情報がないのでわかりませんが、がけ地マンションの高さをめぐる裁判は公開されているものだけでも少なくなく、建築審査会の取扱いも含めた事例は非常に多いと思います。

「からぼり」に関する紛争事例は多い

がけ地マンションの場合、地盤面が地下階の居住空間に設ける「からぼり」の外周なのか底なのか、といった問題があります。
実際、建築基準法に適合するか否かが争われる裁判も少なくなく、「からぼり」の大きさ(幅)等の形態による判断した裁判例の集積があります。
この点が、自治体の建築基準法の取扱い(判断基準)に反映されています。

「からぼり」の定義・判断基準の例

例えば新宿区では、『からぼり』の定義について、
「通風・採光のためのものや緊急時の通路等(窓先空地及び屋外通路を含む)のた めに設けるものをいい、日常、人や車等の通行があるものはこれに該当しない」
としたうえで、からぼりの周囲(外側)を地盤面と取り扱うための要件として、以下を挙げています。

①からぼりと建築物は一体の構造であること
②からぼりは、現況地盤面から掘り込んだものであること
③からぼりの幅(奥行)は2m以下であること
④からぼりから隣地境界線までの距離は50cm以上であること

当職の知る限りにおいては、この辺が、昨今の一般的な基準ではないかと思います。

確認取消の前提として予測可能性があるべきだが…

建築基準関係法令は解釈・適用が一義的に明確とはいい難く、つまり、グレーな部分が多く、その部分では、事業者側は正当な財産権の行使と考え、住民側は脱法と批判します。
設計者・施工者は、取消によって責任を負いかねない立場にあり、あまり無茶なことはしたくない、というのが正直なところではないでしょうか。

自治体が判断基準を示すことによって行政処分の予測可能性が高まることは、確認取消による工事中止、さらには一部解体などの甚大な損害を避けるうえで、重要なことだと考えます。
もっとも、予測可能性を高めることによって、一部の者により、より一層、針の穴を通すようなギリギリの計画が行われる可能性も否定できません。

難しいところですね。